石綿

石綿
と言えば・・・

石綿(いしわた、せきめん、英: Asbestos(アスベストス)、 蘭: Asbest(アスベスト))は、蛇紋石や角閃石が繊維状に変形した天然の鉱石のこと。蛇紋石系(クリソタイル)と角閃石系(クロシドライト、アモサイトなど)に大別される。

オランダ語からアスベスト (asbest) とも呼ばれる。英語ではアスベストス (asbestos) と呼ばれ、ギリシア語の ἄσβεστος (「しない(ない)」という意味の「a」と、「消化できる」という意味の「sbestos」)から来ている。

石綿の繊維1本の細さは大体髪の毛の5,000分の1程度の細さである。耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に非常に優れ安価であるため、日本では「奇跡の鉱物」などと重宝され、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等、様々な用途に広く使用されてきた。しかし、空中に飛散した石綿繊維を肺に吸入すると約20年から40年の潜伏期間を経た後に肺癌や中皮腫の病気を引き起こす確率が高いため、2010年現在では「静かな時限爆弾」などと世間からおそれられている。

日本では1970年代以前の高度成長期に建築物の断熱保熱を目的などにアスベストが大量に消費されていたため、その潜伏期間が丁度終わり始める21世紀に入ってからアスベストが原因で発生したと思われる肺癌や中皮腫による死亡者が増加している。2040年までにそれらによる死亡者は10万人に上ると予測されている。また、アスベストが使用されたビルの寿命による建て替え時期が本格的に始まり、新たなアスベストによる被害が生まれてしまうのではないかと懸念されている(アスベスト問題を参照)。

また、ヨーロッパでも同様のアスベストによる被害が多く見られ、2020年までに肺癌や中皮腫による死亡者は50万に上ると推計されている。

古代エジプトではミイラを包む布として、古代ローマではランプの芯として使われていた。マルコポーロの口述によるとされる『東方見聞録』にヨーロッパでは火に焼けないサラマンダーの皮と知られているものが鉱物である旨の記述があり、これが石綿ではないかといわれている。

中国では、周の時代に征服した西戎からの貢ぎ物として石綿の布が入ってきて、火に投じると汚れだけが燃えてきれいになることから火浣布(火で洗える布)と呼ばれ珍重されていた。

日本では『竹取物語』に登場する、火にくべても燃えない「火鼠の皮衣」も、当時そういうものが実在したとすれば、正体はこの石綿であったろうと言われている。平賀源内が秩父山中で石綿を発見し、明和元年(1764年)にこれを布にしたものを中国にならい火浣布と名付けて幕府に献上している。この源内の火浣布は京都大学の図書館に保存されている。

20世紀に入ると、建物などの断熱材や防火材、機械などの摩擦防止用などに大量に使用されるが、1970年代に入ると人体や環境への有害性が問題になった。発ガン性などが問題となり、2006年9月から、化学工業プラントで配管同士の接続に使用される「シール材」などの5製品を除き原則禁止になった。しかし、厚生労働省は、2008年4月に例外的に認められていた5製品についても2011年度を目途に全廃する方針とり、同年度以降は、新たな石綿製品は国内では製造されないことになった。

日本国外の産地としてはカナダ(クリソタイル)、南アフリカ(クロシドライト)が有名。後者は使用が完全禁止となっているため、既に生産されていない。日本においては第二次世界大戦直前から各地で石綿資源の開発が始まり、北海道富良野市山部地区は数少ない国産石綿産地として野沢鉱山など大規模なクリソタイル鉱山が操業していた。このほか、熊本県や長崎県でも小規模で低品質のクロシドライト等が採掘されていた。これらは戦後も操業が続き、最終的に1969年に富良野市山部での採掘が中止されるまで小規模ながら生産が続けられた。なお、山部においては採掘中止後もズリ(廃石)から低品質の石綿が2000年代初頭まで回収されていた。

石綿は繊維の長さから「グレート」と呼ばれる分類がなされており、このグレートの数が小さいほど、質の高い石綿ということになる。繊維として用いられる物は主としてこのグレートの小さい1~4、建材の原料として用いられるものは比較的グレートの大きい石綿であった。

2009年4月1日には韓国食品医薬品安全庁が韓国のベビーパウダーなどにアスベストが混入していることを発表する[1]。4月6日には、アスベストが混入した原料を供給された社が304に上ることを発表する[2]。また、化粧品・製薬・食品メーカーが約300社に達することが分かり、ベビーパウダーに端を発したアスベスト・ショックが食品・製薬分野にまで拡大しつつある[3]。食品医薬品安全庁はこれらメーカーにタルクが流通した経路を確認した後、すぐに自主的回収などの措置を取るとしている[2]。なお、食品医薬品安全庁の専門家諮問会議「アスベストに汚染したタルクによる人体への有害性が立証されたものはない」という意見をまとめている[2]

日本では1975年(昭和50年)9月に吹き付けアスベストの使用が禁止された。又、2004年に石綿を1%以上含む製品の出荷が原則禁止、2006年には同基準が0.1%以上へと改定されている。大気汚染防止法で特定粉じんとして工場・事業場からの排出発生規制。廃棄物処理法で飛散性の石綿の廃棄物は一般の産業廃棄物よりも厳重な管理が必要となる特別管理産業廃棄物に指定されている。個人でも1960年代まで製造されていた電気火鉢の石綿灰を廃棄する際には注意が必要である。なお、2005年には、関係労働者の健康障害防止対策の充実を図るため、石綿障害予防規則が施行された。

日本において石綿は2006年9月の労働安全衛生法の改正により全面製造禁止となったが、代替品が確立していない特定分野の部材については政令により代替技術が確立されるまで製造の禁止が猶予されている。

猶予されている製品はポジティブリストとして厚生労働省の政令で一覧表となっている。当初リストには、6種12項目が挙げられていた。4種10項目のシール材が温度や圧力や化学条件を指定した条件下での使用を認められていた。即ち化学工業、鉄鋼業、非鉄金属製造業の既存の施設の設備の特定条件下での使用で8項目、潜水艦の特定部品への使用で2項目である。断熱材としては国産ミサイルの部材、およびそれらシールと断熱材の原材料としての使用が挙げられていた。

ポジティブリストは代替品の技術が確立された時点で見直しがなされており、2007年2月にて鉄鋼業に関する2項目が削除され、6種10項目に減った[4]

ポジティブリストにある6種類の製品[5]

これらの用途と条件を限定して製造などの禁止が猶予されている。

アスベストは浮遊粉塵であると同時に繊維物質であるので、単位は本(f)で表される。日本における大気中アスベスト敷地境界基準値は10本/L(全石綿として)である。この基準値はアメリカと同じである(米国アスベスト対策法)。

大気中や室内ではどの程度アスベストが飛散しているのかの調査では次のような調査結果がある(木村ら 1987)。

※参考:大気中のアスベスト:0.19~2.83本/L(平均:0.63本/L)(佐藤ら 1988)

2005年9月現在日本ではアスベストに関する環境基準は設定されていない。

アスベストは、PRTR法で特定第一種指定化学物質に指定されている。2001年度以降の事業者からの移動排出の届出量は、次の表に示すように激減した[6]。2005年度からは環境への排出量がゼロになった。現在は、工場等からの廃棄物として年間500トンが処分されている。

2006年度の届出移動量TOP10は、以下の事業所であった[6]

評価に際しては、PRTR法#PRTR届出データの読み方を参照してください。

建築資材として有害物質である石綿の使用は、飛散防止の措置等、対策工事の必要性から建物の経済価値に影響を及ぼす[7]。不動産鑑定評価における不動産鑑定評価基準には、2002年の改正時に明記された。さらに、2007年の不動産鑑定評価基準改正時に追加された証券化対象不動産について、石綿に係る建物環境は、専門性の高い価格形成要因として、不動産鑑定士以外の専門家による調査の必要性について定められている。宅地建物取引業法第35条に基づく重要事項説明においては、当該建物について、石綿の使用の有無の調査の記録がされているときは、その内容が説明事項に定められている。

近年になって、石綿繊維を大量に吸った場合に人体に悪影響を与えることが判明した。アスベストはWHOの付属機関IARCにより発癌性がある(Group1)と勧告されている。アスベストは肺線維症、肺癌の他、稀な腫瘍である悪性中皮腫の原因になるとされている。したがって、世界的にアスベストの使用が削減・禁止される方向にある。

2005年にはアスベスト原料やアスベストを使用した資材を製造していたニチアス、クボタで製造に携わっていた従業員やその家族など多くの人間が死亡していたことが報道された。クボタについては工場周辺の住民も被害を受けている。その後も、造船や建設、運輸業(船会社、鉄道会社)などにおける被害が報じられ、2005年7月29日付けで厚生労働省から1999年度から2004年度までの間に、日本全国の労働基準監督署において石綿による肺癌又は中皮腫の労災認定を受けた労働者が所属していた事業場に関する一覧表が公表された(後述外部リンク参照)。

なお、環境省では建築物の解体によるアスベストの排出量が2020年から2040年頃にピークを迎えると予測している。年間10万トン前後のアスベストが排出されると見込まれ、今後の解体にあたって建築物周辺の住民の健康への影響が懸念されている。